ち》な言ひ草だ、嫉妬深《しつとぶか》い松本の暴論も、老実な浦和の主張で未《ま》だ決議には至らぬさうだが、其れが彼《あ》の吾妻の奸策だとは何事だ、尤《もつと》も彼奴《あいつ》、嫌《いや》な奴サ、先生の前でほヒヨコ/\頭ばかり下げて諂諛《おべつか》ばかり並べて、――誰か何時《いつ》やら、政府の狗《いぬ》ぢや無いかと注意したつけが、何《どう》も先生は既に左様《さう》と知つて居られるらしかつたよ、彼時《あのとき》の御返事を見ると――彼程《あれほど》敏慧《びんけい》な頭脳を邪路から救ひ出して遣《や》るものが無ければ、啻《ただ》に一人の兄弟を失ふのみならず社会は何程|毀損《きそん》されるかも知れないと、――先生を殺すものは――必竟《ひつきやう》先生の愛心だ――アヽ」
 薬園阪《やくゑんざか》下り行く空腕車《からくるま》の音あはれに聞こゆ「ウム、車夫《くるまや》も嘸《さ》ぞ寒むからう、僕は家《うち》に居るのだけれど」大和は机の上に両手を組みつ、頭《かしら》を俯《ふ》して又た更に思案に沈む、
「本当に左様《さう》だ、先生を殺すものは先生の愛心だ、花ちやんを救ふ、すると直ぐ其れが先生に禍《わざはひ》する
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