に左様《さう》だわねエ」
「ヘエ、そして芳《よつ》ちやん、既《も》う牢屋へ行らしつたのですか」
「否《いゝ》え、明日ですつて、」
「左様《さう》ですか――」
梅子は強《しひ》て平然と装へり、去《さ》れど制すべからざるは其顔なり、看《み》よ、其の凄《すさまじ》き蒼白《さうはく》を、芳子は稍々《やゝ》予算狂へるが如く、訝《いぶ》かしげに姉の面《かほ》見つめて、居たりしが、芳子々々と、ケタヽましく呼ぶ母の声に、飛ぶが如くに黙つて走せ行けり、
梅子は声を呑《の》んで瞠《だう》と伏せり、
二十九の一
宵の雨も何時《いつ》しか雪と降り替はれり、
麻布本村町の篠田が玄関には、深《ふ》け行く寒き夜を、大和《おほわ》一郎の尚《な》ほ兀々《こつ/\》と勉学に余念なし、雪バラ/\と窓を打ちて、吹き入る風に身を慄《ふる》はしつ「オヽ、寒い、最早《もう》何時かナ、未だ十二時にはなるまい――」
顧《かへりみ》る台所の方《かた》には、兼吉の老母が転輾《てん/\》反側《はんそく》の気はひ聞ゆ、彼女《かれ》も此の雪の夜の物思ひに、既に枕に就《つ》きたるも、容易《たやす》くは夢の得も結ばれぬなるべ
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