――」
 彼女《かれ》は恍惚《くわうこつ》として夢の如く、心に浮ぶ篠田の面影《おもかげ》に縋《すが》りて接吻せり、
「姉さん」と黄色の声して芳子は走《は》せつゝ入り来れり、
 梅子は遽然《きよぜん》我に返へりつ、「あら、芳ちやん、喫驚《びつくり》しましたよ、何《どう》なすつて」
「姉さん、私、可《い》いこと聴いたワ」芳子は姉の面《かほ》打ち眺《なが》めて笑ふ、
 梅子は又た何か面白ろからぬ我が噂《うはさ》なるべしと思へば、取り合はん心もあらず、
 去れど芳子は一向|無頓着《むとんちやく》に、大勝利を報告する将軍の如くぞ勇める「姉さん、私、今ま可《い》いことを聴いてよ、篠田さんは到頭《たうとう》縛《しば》られて、牢屋へ行きなさるんですと」
 巨砲もて打たれたらん如き驚愕《きやうがく》を、梅子は熟《じつ》と制しつ「――左様《さう》ですか――誰にお聴きなすつて――」
「今ネ、何処《どこ》からか電話で、――何でも警視庁とか云つてでしたの――報《しら》して来たんです、阿父《おとつさん》が阿母《おつかさん》に話して在《い》らしつてよ、是れで漸《やうや》く松島さんへ、お詫《わび》が出来るつて、ほんと
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