酌子定規《しやくしぢやうぎ》に拘泥《こうでい》して、悪党退治が出来ると思ふか――フヽム」
吾妻は暫《し》ばし川地の面《おもて》ながめ居りしが、忽如《たちまち》、蒼《あを》く化《な》りて声ひそめつ「――ぢや、又た肺病の黴菌《ばいきん》でも呑《の》まさうと云《いふ》んですか――」
川地は黙つてスイと起ちつ「吾妻、居室《ゐま》へ来給へ、一盃《いつぱい》飲まう――骨折賃も遣らうサ」
去《され》ど吾妻は悄然《せうぜん》として動きもやらず「――考へて見ると警察程、社会の安寧を壊《やぶ》るものは有りませんねエ、泥棒する奴も悪いだらうが、捉《とら》へる奴の方が尚《な》ほ悪党だ」
「社会の安寧?」と川地は苦笑しつ「何も、皆《みん》な飯の種《たね》サ」
吾妻は低声独語しぬ「飯の種、――飯の種」
二十八
大洞《おおほら》別荘の椿事《ちんじ》以来、梅子は父剛造の為めに外出を厳禁せられて、殆《ほとん》ど書斎に監禁の様《さま》なり、継母の干渉《かんせふ》劇《はげ》しければ、老婆も今は心のまゝに出入すること能《あた》はず、妹《いもと》芳子が時々来りては、父母が梅子に対する悪感情を、傲《ほこ》
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