りの為め、其の後に付いて、雪の山路を辿《たど》り来りしが「其う云ふ次第《わけ》で、長二や、気を着けてお呉れよ、此世に只《た》だ伯母一人|姪《をひ》一人と云ふのぢや無いか、――亭主には婚礼もせずに逝《ゆ》かれる、お前の阿父《おとつさん》は彼《あ》の様な非業《ひごふ》な最後をする、天にも地にも頼るのはお前ばかりのだ――まあ、之を御覧よ」と、眼下に白き雪の山里|指《ゆびさ》しつ「お前の阿父《おつとさん》は此の秩父《ちゝぶ》の百姓を助けると云ふので鉄砲に撃《う》たれたのだが、お前の量見は其れよりも大きいので、如何《どんな》災難が湧《わ》いて来ようも知れないよ、――此様《こんな》年老《としと》つた上に、逆事《さかさまごと》など見せて呉れない様にの――」
 篠田も何とやらん後髪引かるゝやう「伯母さん、何卒《どうぞ》心配せんで下ださい、重々御苦労を御掛け申して来た今日《こんにち》ですから――其《そ》れに私も既《もう》三十を越したんですから、後先《あとさき》見ずのことなど致しませんよ、父にも母にも為《す》ることの出来なかつた孝行を、貴女《あなた》御一人の上に尽くしたいのが、私の精神ですからネ」
 伯母
前へ 次へ
全296ページ中259ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング