主の無い婦人《かた》だとお言ひぢやないか、エ、長二」
 篠田は腹を拘へて噴飯《ふきだ》せり、
「イエ、本当の話だよ」と伯母は益々|真面目《まじめ》也、
「伯母さん、兼《かね》てお話した通り、偉い女性《ひと》に相違ありませぬがネ、――伯母さんより十歳《とを》も上のお姿さんですよ」
「何だエ」と伯母は眼を円《まる》くし「其様《そんな》豪《えら》い婦人《ひと》で、其様《そんな》歳《とし》になるまで、一度もお嫁にならんのかよ――異人てものは妙なことするものだの」
「別に不思議はありませんよ、現に伯母さんも左様《さう》ぢやありませんか」
「ナニ、私ヤ、是でもチヤンと心に亭主があるのだよ」
「其れならば、伯母さん、御安心下ださい、私もチヤンと花嫁がありますよ」
 篠田は晃々《くわう/\》たる雪の山々見廻はして、歓然たり、
「オヽ、お嫁があるとエ」と伯母は驚くまでに打ち喜び
「して、其《そ》れは何時きめました、早く知らせて呉れゝば可《い》いに」
「なに、伯母さん、改めてお知らせする程のことも無いのです、最早《もう》疾《と》くの昔時《むかし》のことですから」
[ほツほ、何を長二、言ふだよ、斯様《こんな
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