真の顔などは見えなくなる程が可《い》いよ、――そりやお前、絵姿なんてものは、極《きま》り切つた顔して居るばかりだけれど、此の心に映る姿は、物も言へば、歩きもする、怒りもすれば笑ひもする、斯様《こんな》自由自在なものは有るまいよ」
「成程」と、篠田は瞑目《めいもく》して、伯母が言葉の端々《はし/\》深く味ひつ、
伯母はほツほと独《ひと》り笑ひつ「私ヤ、まア、勝手なことばかり言つて居たが、長二や、其れよりもお前の嫁《よめ》の決らないのが、誠に心懸《こころがか》りだよ、何《どう》だエ、未《ま》だ矢ツ張り心当りが無いか、――江戸あたりの埃《ほこり》の中には、お前の気に協《かな》つたものは有るまいが、ト云つて山の中にも無しの、ほんに困つて仕舞《しま》うたよ」と首傾けて屈托《くつたく》の態《さま》なりしが「ほう」と一つ己《おのれ》が膝《ひざ》叩《たゝ》きつ「どうだエ、長二、お前、亜米利加《アメリカ》とかで大層お世話になつた婦人《かた》があるぢや無いか、偉い女性《ひと》だとお前が言ふのだから、大した人に相違なかろが、一つ其|婦人《かた》を貰ふわけにやなるまいか、異人でも何でむ構やせぬよ、其れに御亭
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