るものと見える、其れに死んだ人は、羨《うらや》ましいことに、年と言ふものを取らないので、誰も彼も皆な若いよ、お前の阿父《おとつさん》でも阿母《おつかさん》でも皆な若いよ、――私の亭主も丁度《ちやうど》二十歳《はたち》で亡《なくな》つたが、其時の姿の儘《まゝ》で目に見える、私《わし》の頭が斯様《こんな》に白くなつたので、どうやら耻かしい様な気がして、最早《もう》何時にも鏡と云ふものを見たことが無いよ――」
 ほツほツと片頬《かたほ》に寄する伯母の清らけき笑の波に、篠田は幽玄の気、胸に溢《あふ》れつ、振り返つて一室《ひとま》に煤《すゝ》げたる仏壇を見遣《みや》れば、金箔《きんぱく》剥《は》げたる黒き位牌《ゐはい》の林の如き前に、年|経《へ》て朧気《おぼろげ》なる一個の写真ぞ安置せらる、是《こ》れ此の伯母が、未《いま》だ合衾《がふきん》の式を拳ぐるに及ばずして亡《な》き数《かず》に入りたる人の影なり、
 伯母もチヨと其方《そなた》を見やりつ「いつであつたか、彼《あ》の写真が判らぬ様になつたので、大きな油絵とやらに書き代へようと親切に、お前が言うて呉れたが、ナニ、決して其れには及びませぬよ、写
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