樹《こ》の間《ま》より燈影《ほかげ》の漏るゝ見ゆ、伯母は未《ま》だ寝《い》ねずあるなり、
細き橋を渡り、狭《せま》き崖《がけ》を攀《よ》ぢて篠田は伯母の軒端近く進めり、綿糸《いと》紡《つむ》ぐ車の音|微《かす》かに聞こゆ、彼女《かれ》は此の寒き深夜、老いの身の尚《な》ほ働きつゝあるなり、
「伯母さん」篠田ほホト/\戸を叩《たゝ》けり、
車の音|止《や》みぬ、去《さ》れど何の答《いらへ》もなし、
篠田は再び呼べり「伯母さん」
「誰だエ」と伯母は始めて答《いら》へぬ、
「伯母さん、私です」
「オ、――長二ぢやないか」倉皇《さうくわう》として起ち来《きた》る音して、歪《ゆが》みたる戸は、ガタピシと開きぬ、
「まア――」と驚きたる伯母は、雪に立ちたる月下の篠田を、嬉しげにツクヅクと見上げ見下ろせり「能《よ》く来てお呉れだ、先頃の手紙に、忙しくて当分行くことが出来さうも無いとあつたので、春暖かにでもならねばと思つて居たのに、――嘸《さ》ぞ寒むかつたらう、今年は珍らしい大雪での、さア、お入り、私ヤ又た狐でも呼ぶのかと思つたよ」
「狐と聞違へられでは大変ですネ」と篠田は莞然《くわんぜん》笑《
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