今ま演壇には、背広の洋服ヤヽ垢《あか》つけるを一着なしたる青年が、手を振り声を張上げて騒々擾々《さうざうぜう/\》たる聴衆と闘ひつつあり、行徳、坂井、松下、菱川、柴等の面々は皆な既に演じ終りたるなりと云ふ、否《い》な、何《いづ》れも五分十分にて中止を命ぜられしなりと云ふ、特《こと》に最も滑稽《こつけい》なりしは、菱川が登壇開口、「戦争で第一に金儲《かねまうけ》するのは誰だか、諸君、知つてますか」の一語|未《いま》だ終らざるに、早くも「中止」の一喝《いつかつ》に逢《あ》ひしことなりとぞ、是れには二階の左側に陣取れる一群の反対者も、手を拍《う》つて哄笑《こうせう》せしにぞ、警視は頬《ほゝ》を脹《ふくら》して暫《し》ばし座りも得せざりしと云ふ、
 青年弁士は水ガブ/\と飲《のん》で又た手を振り始めぬ、「諸君が露西亜《ロシヤ》討たざるべからずと言ふけれ共ダ、露西亜の何物を討つと言ふのです」
「露西亜帝国を征伐するんだ」と叫ぶものあり、
 弁士は声せし方に向《むかつ》て「果して然らば僕は、我輩は――」
 一隅の聴衆ワア/\と冷笑す、
 「我輩は諸君の態度が可笑《をか》しいと思ふです、即《すなは》
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