若紳士は唯々《ゐゝ》として頭《かうべ》を垂れぬ、
馬車は夕陽を浴びつゝ迂廻《うくわい》して、やがて悠々《いう/\》華族会館の門を入りぬ、
* * *
神田|美土代町《みとしろちやう》なる青年会館の門前には、黒山の如き群集の喧々《けん/\》囂々《がう/\》たるを見る、
「何故《なぜ》入場を許さない」「集会の自由を如何にする」「圧制政府」「警察の干渉」「僕は社会主義に反対のだから入《いれ》て呉れい」「ヒヤ/\」「ノウ/\」「馬鹿野郎」「ワハヽヽ」「ワアイ/\」
星影まばらに風寒き所、圧《お》しつ圧されつ動揺するさま、怒涛《どたう》の闇夜寄せつ砕けつするに異らず、
鉄門は既《すで》に固く鎖《とざ》されたり、只《た》だ赤煉瓦《あかれんぐわ》の塀《へい》に、高く掲げられたる大巾《おほはば》の白布に、墨痕《ぼくこん》鮮明なる「社会主義大演説会」の数文字のみ、燈台の如く仰がれぬ、
幾十となき響官の提灯《ちやうちん》は、吠《ほ》えたける人涛《ひとなみ》の間に浮きつ沈みつして、之を制止する声|却《かへつ》て難船者の救助を求むる叫喚の如くぞ響く「最早《もう》立錐《
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