、彼《あ》の男の為めか」
「ハ、尤《もつと》も松島の負傷に就《つい》ては、少こし事情もある様に御座りまするが――」
「イヤ、例令《たとへ》如何なる事情があらうとも、此の軍国多事の際、有為《いうゐ》の将校に重傷を負はしむると云ふは容赦ならぬ」と、言ひつゝ将軍は斜《なゝめ》に篠田の後影を睨《にら》みつ、「何して居る、何《いづ》れ善からぬ目算致して居るのであらう」
「ハ、多分今晩演説の腹案でも致し居るものと思はれまする」
「ナニ、演説――何処《どこ》で」
「ハ、神田の青年館と申すで、非戦論の演説会を」
「怪しからんこと」と将軍の眉は動けり「戦争のことは上《かみ》御一人《ごいちにん》の御叡断《ごえいだん》に待つことで、民間の壮士などが彼此《かれこれ》申すは不敬|極《きは》まる、何故内務大臣は之を禁じない――ナニ――だから貴様等は不可《いかん》と言ふのだ、法律などに拘泥《かうでい》して大事が出来るか、俺など皆な国禁を犯して維新の大業を成したものだ、早速電話で言うて遣《や》れ、俺の命令だと云うて――輦轂《れんこく》の下をも憚《はばか》らず不埒《ふらち》な奴等だ」
将軍は昂然《かうぜん》たり、
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