たま》へ、夜中の労働――売淫、窃盗、賭博、巡査――巡査も剣を握つて厳《いか》めしく立つては居るが、流石《さすが》に心は眠つて居るよ、其間を肩に重き包を引ツ掛けて駆け歩くのが、アヽ実に我等新聞配達人様だ、オイ村井君、君の崇拝する篠田先生も紡績女工の夜業などには、大分《だいぶ》八《や》ヶ|間敷《ましく》鋭鋒《えいほう》を向けられるが、新聞配達の夜業はドウしたもんだイ、他《ひと》の目に在《あ》る塵を算《かぞ》へて己《おのれ》の目に在る梁木《うつばり》を御存《ごぞんじ》ないのか、矢ツ張り、耶蘇《ヤソ》教徒婦人ばかりを博愛しツてなわけか、ハヽヽヽヽヽ」
「是《こ》りや羽山さん、出来ました」「村井さん如何《いかが》です」「ハヽヽヽヽヽ」
 隣れる室の閾《しきゐ》に近く此方《こなた》に背を見せて、地方行の新聞に帯封施しつゝある鵜川《うかは》と言へる老人、ヤヲら振り返りつ「アハヽ村井さん、大分痛手を負ひましたナ、が、御安心なさい、此頃も午餐《ひる》の卓《つくゑ》で、主筆さんが社長さんと其の話して居《を》られましたよ」
「ドウだ羽山、恐れ入つたらう」と村井は雲を破れる朝日の如く笑ましげに、例の鋭き眼《ま
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