精粋を発揮することは出来ぬと思ふです」
「アヽ、剛さん、――世間からは毒婦と恐れられ、神様からは悪魔と賤《いや》しめられて忌《いや》な生涯《しやうがい》を終らねばならんでせうか――私、此の右手を切つて棄《す》てたい様だワ――」
「姉さん」と剛一は膝を進めぬ「篠田さんの心配して居なさつたのは其処《そこ》なんです、貴嬢《あなた》の一生の危機は、先夜の危難の際では無く、虎口を脱れなすつた今日《こんにち》に在《あ》ると仰《おつ》しやるんです、――姉さん、貴嬢は今ま始めて凡《すべ》ての束縛《そくばく》から逃れて、全く自由を得なすつたのです、親の権力からも、世間の毀誉褒貶《きよはうへん》からも、又た神の慈愛からさへも自由になられたのである、今は貴嬢《あなた》が真正《ほんたう》に貴嬢の一心を以て、永遠の進退を定めなさるべき時機である、――愛の子か、詛《のろひ》の子か――けれど君の姉さんが此際、撰択《せんたく》の道を過《あやま》つ如き、弱く愚《おろか》なる人で無いことは確《たしか》に信ずると篠田さんは言うてでしたよ、――姉さん篠田さんは貴嬢を斯《か》くまで篤《あつ》く信じて居なさいますよ」
梅子は枕
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