ま自転車に点火せんとしつゝあり、
側《かたへ》には一人、彼《か》の老婆の身を縮めて「剛様、今夜は又た一《ひ》ときは寒う御座んすから何卒《どうぞ》、御気を着け遊ばしてネ――貴郎《あなた》が行つて下ださるので、如何程《どんなに》安心で御座いませう」
「婆《ばあ》や、一飛びだ――何せよ、場所が場所だからナ、僕ア心配で堪まらぬのだ、大洞の伯父だの伯母だのツて、婆や、人間の面《つら》してる畜生なんだ、姉さんの身上《みのうへ》に万一のことでもあつて御覧、何《ど》の顔して人に逢はれるか」
早や彼は車を運びて、門の方へ進み行く、
此時|忽《たちま》ち轣轆《れきろく》たる車声、万籟《ばんらい》死せる深夜の寂寞《せきばく》を驚かして、山木の門前に停《とど》まれり、剛一は足をとどめてキツとなれり、
小門、外より押されて数名の黒影は庭内に顕《あら》はれぬ、先《さ》きなるは母のお加女なり、中に擁《よう》されたるは姉の梅子なり、他は大洞よりの附《つ》け人《びと》にやあらん、
「姉さんですか」剛一は自転車を投じて走《は》せ寄れり、梅子はヒシと抱《いだ》き着きぬ「剛さん――」
彼女《かれ》は弟の温き胸に頭《
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