* * *
襖《ふすま》を隔《へだ》てて窺《うかが》ひ居たるお熊は、尋常《ただ》ならぬ物音に走《は》せ出でぬ、
看《み》よ、松島はヒシと左眼を押へて悶絶《もんぜつ》す、手を漏れて流血|淋漓《りんり》たり、
梅子はスツクと立ち上れり、其の右手には汚血《をけつ》を握りつ、
「来て下ださい」
絶叫したるまゝ、お熊は倒れぬ、
何事やらんと駆《か》け上がりたる大洞《おほほら》も、お加女《かめ》も、流るゝ血潮に驚きて、只《た》だ梅子の面《かほ》を見つめしのみ、
梅子は始めて唇を開きぬ「警察へ引き渡して頂きませう――私は血を流した罪人です」
死力を籠《こ》めたる細き拇指《おやゆび》に、左眼|抉《ゑぐ》られたる松島は、痛《いたみ》に堪へ得ぬ面《かほ》、僅《わづか》に擡《もた》げつ「――秘密――秘密に――名誉に関はる――早く医者を、内密に――」
「名誉ツ?」梅子は突つ立てるまゝ、松島を睨《にら》めり、「名誉とは何事です、誰の名誉に関はるのです、殺人と掠奪《りやくだつ》を稼業《かげふ》にする汝等《なんぢら》に、何で人間の名誉がありませうか、――女性《によせい
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