りつ、「――人道の敵ツ」
黒髪バラリと振り掛かれる、蒼《あを》き面《おもて》に血走る双眼、日の如く輝き、怒《いかり》に震《ふる》ふ朱唇《くちびる》白くなるまで噛《か》み〆《し》めたる梅子の、心|決《きは》めて見上たる美しさ、只《たゞ》凄《すご》きばかり、
炎々たる情火に松島は、気狂ひ、心|悶《もだ》えて眼さへに眩《くら》くなれり、
「――復讐《ふくしう》――」
今や心狂ひたる軍人の鉄腕に擁《よう》せられたる、繊細なる梅子の身は、鷹爪《ようさう》に捉《と》らはれたる雛雀《すうじやく》とも言はんか、仮令《たとひ》声を限りに叫べばとて何処《いづこ》より、援助来らん、一点の汚塵《をぢん》だも留めたるなき一輪の白梅、あはれ半夜の狂風に空《むな》しく泥土《でいど》に委《ゐ》すらんか、
押へられたる儘《まゝ》、梅子は瞬《またゝ》きもせで睨《にら》み詰めたり、
松島は梅子を引き起しつゝ、其の繊弱《かよわ》き双腕《りやうわん》をばあはれ背後《うしろ》に捉《とら》へんずる刹那《せつな》、梅子の手は電火《いなづま》の如く閃《ひらめ》けり、
「キヤツ」と一声、松島の大なる躯《からだ》はドウと倒れぬ、
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