やがふ》を自白するんだナ」
「何を仰《おつ》しやる――」
 梅子のキツとなるを、松島|笑《わらつ》て受け流《な》がし、
「左様《さう》だらう、未《ま》だ結婚もしない、公然約束もしない、父母の承諾を得たでもない、其れで良人があるとすれば、野合の外なからう」
「――貴所《あなた》は愛の自由と神聖とをお認めになりませぬか」
「神聖も糞もあるかい」
 梅子の柳眉《りうび》は逆立《さかだ》てり「軍人の思想は其程《それはど》に卑劣なものですか」
「何ツ」松島は猛獅《まうし》の如く躍《をど》り上りつ、梅子の胸を捉《とら》へて仰《あふむ》けに倒せり、「女と思つて赦《ゆる》して置けば増長しやがつて――貴様《きさま》の此の栄耀《ええう》を尽くすことの出来るのは誰のお蔭だ、貴様等を今日乞食にしようと、餓死《うゑじに》させようと、我が方寸にあることを知らないか――軍人の卑劣とは聞き棄てならぬ一言だ――貴様の大事な篠田の受売だらう、見とれ、篠田の奴も決しで安穏に許るしては置かぬぞ、貴様等の為めに帝国軍人の名誉を毀《きずつ》けてなるものか」
 力を極《きは》めて押し付くるを、梅子は絶えなんばかりの声振り絞《しぼ》
前へ 次へ
全296ページ中213ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング