さるでせう、貴嬢は私を御存知ありますまいが、私は能《よ》く貴嬢を存じて居ります――私は前年先妻を亡《うし》なつた時、最早《もは》や終生独身と覚悟致しました、――梅子さん、仮にも帝国軍人たるものが、其の決心を打ち忘れて、斯かる痴態を演ずると云ふ、男子が衷情《ちゆうじやう》の苦痛を、貴嬢は御了解下ださらぬですか」
松島は梅子の袂《たもと》をシカと握れるまゝ、ジツと其|面《おもて》ながめ遺《や》り「斯く御婦人に対して御無礼を働きまするも――幾度も拒絶されたる貴嬢に対して、耻辱を忍《しのん》で御面会致すと言ふも、人伝《ひとづ》てにては何分にも靴を隔てて痒《かゆき》を掻くの憾《うらみ》に堪へぬからです、今日《こんにち》に至《いたつ》ては、強《しひ》て貴嬢の御承諾を得たいと云ふのが私の希望では御座いませぬ、只だ貴嬢の御口から直接《ぢか》に断念せよと仰《おつ》しやつて下ださるならば、私は其を以て善知識の引導と嬉しく拝聴致します、不肖ながら帝国軍人です、匹夫《ひつぷ》野人《やじん》の如く飽くまで纏綿《つきまと》つて貴嬢を苦め申す如き卑怯《ひけふ》の挙動《ふるまひ》は、誓つて致しませぬ、――何卒、梅子
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