「まア、お口のお悪いことねエ」とお熊も笑ひつ「何卒松島さんお盃はお隣へ――」
「左様《さう》ですか、――然《し》かし失礼の様ですナ」と、美しき梅子の横顔、シゲ/\見入りつ「では、山木の令嬢」と小盃《ちよく》をば梅子に差し付けぬ、
「梅ちやん、松島さんのお盃《さかづき》ですよ」と徳利差し出して、お熊の促《うな》がすを、梅子は手を膝《ひざ》に置きたるまゝ、目を上げて見んとだにせず、
「梅子、頂戴《ちやうだい》しないのかね」と、お加女は目に角立《かどた》てぬ、
「かう云ふ不調法もので御座いましてネ、誠に御不礼ばかり致しまして」
「なにネ、お加女さん、御婚礼前は誰でも斯《か》うなんですよ」と、お熊はバツを合はして「ぢやア梅ちやんの名代《みやうだい》に、松島さん、私が頂戴致しませう」
「こりや奇麗《きれい》な花嫁が出来ましたわイ」と利八は大笑す、
「あら、旦那、何ですねエ」と、お熊は手を揚《あ》げて、叩《たゝ》くまねしつ「是《こ》れでも鶯《うぐひす》鳴かせた春もあつたんですよ」グツと飲み干してハツハと笑ふ、
 何れも相和して笑ひどよめく、
 梅子の眉ビクリ動きつ、帯の間より時計出して、ソと見やる
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