んがネ、折角《せつかく》母様がお誘ひ下ださるのだから、御伴《おとも》するんです――けれど、婆や、別に心配なこと無いぢやないかネ」
「いゝえ、お嬢様、上野浅草へ行《いら》しやるのを、心配とも何とも思ひは致しませんが――帰途《かへり》に大洞《おほほら》様の橋場の御別荘へ、お寄りなさると仰《おつ》しやるぢや御座いませんか」
「左様《さう》よ」
「サ、それが、お嬢様、何となく心懸《こゝろがか》りなので御座います」
「何故《なぜ》――婆や」
老婆は垂頭《うなだれ》て語《ことば》なし、良久《しばらく》ありて「近頃、奥様の御容子《ごようす》が、何分《どうも》不審なので御座いますよ、先日旦那様が御帰京《おかへり》になりました晩、伊藤侯が図《はか》らずも媒酌人《ばいしやくにん》に為《な》つて下ださるからとのお話で、大勲位の御媒酌なんて有難いことは無いと、奥様も大層な御歓喜《およろこび》で在《いら》しつたで御座いませう、其れをお嬢様、貴嬢がキツパリ御断《おことわり》になつたもんですから……御両所《おふたり》の彼《あ》の御立腹は如何《いかが》で御座いました、旦那様は随分|他人《ひと》には酷《ひど》くお衝《
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