今日の勤務の打ち合はせやすらん、
足音あわただしく駆け込み来れる一人「諸君、――実に大変なことが出来《しゆつたい》した」
其声は打ち顫《ふる》へて、其|面《かほ》は色を失へり、彼は吾妻俊郎なり、
「何だ、君、そんな泥靴のまゝで」と、立ちて新開を見居たる一人は眉を顰《ひそ》めぬ「電車でも脱線したと云ふのか」
「馬鹿言つてちや困まる、我社の危急存亡に関する一大事なのだ、我々は全然《まるで》、篠田の泥靴に蹂躙《じうりん》されたのだ――」吾妻の両眼は血走りて見えぬ、
「ナニ、篠田|様《さん》が如何《どう》なされたと云ふんだ」と、居合せる面々、異口同音に吾妻を顧みたり、
吾妻は目を閉ぢ、歯を噛締《くひしめ》て、得堪へぬ悲憤を強ひて抑《おさ》へつ「諸君、僕は実に諸君に対する面目が無いです、――従来《これまで》僕は篠田先生に阿媚《あび》するとか、諂諛《てんゆ》するとかツて、諸君の冷嘲熱罵を被つたですが、僕は只《た》だ先生を敬慕する余りに、左様な非難をも受くることになつたのです、然るに諸君、僕は全く欺《あざむ》かれて居ました――」吾妻はハンケチもて眼を蔽《おほ》ひつ「僕が諸君の罵詈《ばり》攻撃を
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