する、篠田の偽善程恐るべき者は無い、現に其の掩《おほ》ふべからざる明証の一は、彼《か》の芸妓《げいぎ》の花吉を誘拐《いうかい》して内々自分の妾にしたのでも判つて居るぢやないか」
「左様《さう》だ/\、毫《がう》も疑ふ所は無い」と松本は愈々《いよ/\》激昂《げきかう》しつ「現に今度の九州炭山の一件でも知ることが出来る、本来ならば篠田が自身に出掛けて大《おほい》に煽動《せんどう》せにやならないのだ、然るに自分は東京に寝て居て、少しばかり新聞でお茶を濁してるんぢや無いか、僕は最初から彼奴《きやつ》が嫌ひだ、耶蘇《ヤソ》ばかり振り廻はしやがつて――」
 浦和は眼を閉ぢて沈黙す、
 吾妻は声を打ちひそめて「君、新聞社内では既に篠田の売節を誰一人疑ふものは無いのだ、只《た》だ余り目立たずに彼を放逐しなければ社其物の名誉に関するから、非常に苦心してるのサ、――彼が内々消費する金銭のことを考へるに、尋常のもので無いことは明白だ、多分|露探《ろたん》ぢや無からうかと云ふ社内の輿論《よろん》だがネ、――浦和君、僕の心事は君も知つて居るぢやありませんか、僕が何を好んで我が先輩たり恩人たる彼の不利を図《はか》
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