的として居る売節漢、否《い》な最初からの間諜《かんてふ》であると知つた以上は、断然我が主義の為めに之を斬らねばならぬと決心したです、故に僕は今夜|敢《あへ》て両君に密告して、鍛工組合の名を以て此の売節奴《ばいせつど》を制裁せらるゝことを希望するです」
明朗なる音声もて滔々《たう/\》述べ来れる吾妻は、悲憤の涙を絞りつゝ「両君――篠田が山木剛造の娘に恋着して、其の二万円の持参金に眩惑《げんわく》して、資本党の門に降参したことは、最早や一点の疑《うたがひ》もない――彼は今度の労働者大会を内部から打《う》ち壊《こは》して、其れを結納《ゆひなふ》として結婚式を挙げるのだ――彼は我々労働者に取つて獅子身中の虫であるツ――」
「僕は吾妻君を信ずる、僕は初めから彼を疑つて居たのだ、今夜もヅウ/\しく来て居るのだ、――可也《よし》」
と言ひ棄てて起《た》ち上らんとする松本を、暫《しば》しとばかり浦和は制しつ「失礼の様ですが私には未《ま》だ理解が出来ません」
十八の二
「僕が篠田の誣告《ぶこく》でもすると云ふんですか」と、吾妻は憤然《ふんぜん》として浦和に詰め寄る、
「否《い》や、誣告
前へ
次へ
全296ページ中181ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング