は何分にも信用出来ませぬで――」と、浦和は瞑目《めいもく》のまゝ思案に沈めり、
「イヤ、浦和さん」と吾妻は乗出で「信用なさらぬのは御道理《ごもつとも》です、斯《か》く云ふ僕が最初は如何《どう》しても出来なかつたですから、――御承知の如く僕は従来《じらい》篠田を殆《ほとん》ど崇拝して居たんでせう、彼の秘書官の如く働くので、社員中に大分不平|嫉妬《しつと》の声が盛《さかん》なのです、けれど一身の毀誉褒貶《きよはうへん》の如《ごと》きは度外に措《お》きて、只《た》だ篠田の為めに一臂《いつぴ》の労を執《と》ることを無上の満足として居たのです――然《しか》るに段々彼の内状を詳《つまびらか》にすると、実に其の裏面に驚くべき卑劣《ひれつ》の野心を包蔵することが聊《いさゝ》か疑《うたがひ》ないので――御両君、僕は実に失望落胆の為め殆《ほとん》ど発狂するばかりに精神を痛めたです――乍併《しかしながら》更に退《しりぞい》て考へると、是《こ》れは徒《いたづ》らに愁歎《しうたん》して居るべき時でない、僕の篠田を崇拝したのは其の主義に在るのだ、彼が主義の仮面を被《かぶ》つて、却《かへつ》て我等同志を売ることを目
前へ 次へ
全296ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング