うだ」
踞《しやが》んで居たる四十|恰好《かつかう》の男「さうよ、でも此の新聞社などは少《す》こし毛色が変はつてるから、貧乏な代りに余り非道も遣《や》らねいが、外の社と来たら驚いちまはア、さんざん腹こき使つた上句《あげく》、体が悪くなつたからつて逐《お》つ払ひよ、チヨツ、誰の為めに体が悪くなつたんだ」
フカリ/\烟草《たばこ》を吹かし居たる柔順《おとなし》やかなる爺《おやじ》「年増《としま》しに世の中がヒドくなるよ、俺の隣に砲兵工廠へ通ふ男があつたが、――なんでも相当に給料も取つてるらしかつたが、其れが出しぬけにお払函《はらひばこ》サ、外国から新発明の機械が来て、女でる間に合ふからだと云ふことだ」
彼《か》の剽軽《へうきん》なる男「フム、ぢやア逐々《おひ/\》女が稼《かせ》いで野郎は男妾《をとこめかけ》ツたことになるんだネ、難有《ありがた》い――そこで一つ都々逸《どゝいつ》が浮んだ『私《わたし》ヤ工場で黒汗流がし、主《ぬし》は留守番、子守歌』は如何《どう》だ、イヤ又た一つ出来た、今度は男の心意気よ『工場の夜業で嬶《かゝあ》が遅い、餓鬼《がき》はむづかる、飯《めし》や冷える』ハヽヽ
前へ
次へ
全296ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング