たる配達夫の十四五名、若きあり、中年あり、稍々《やゝ》老境に近づきたるあり、剥《はげ》たる飛白《かすり》に繩の様なる角帯せるもの何がし学校の記章打つたる帽子、阿弥陀《あみだ》に戴《いただ》けるもの、或は椅子に掛かり、或は床《とこ》に踞《すわ》り、或は立つて徘徊《はいくわい》す、印刷|出来《しゆつたい》を待つ間《ま》の徒然《つれづれ》に、機械の音と相競うての高談放笑なかなかに賑《にぎ》はし、
三十五六の剽軽《へうきん》らしき男、若き人達の面白き談話に耳傾けて居たりしが、やがてポンと煙管《きせる》を払ひて「書生さん方、お羨《うらや》ましいことだ、同し配達でもお前さん達は修業金の補充《たしまい》に稼ぐだが、私抔《わたしなど》を御覧なせい、御舘《おやかた》へ帰つて見りや、豚小屋から臀《しり》の来さうな中に御台所《みだいどころ》、御公達《ごきんだち》、御姫様方と御四方《およつかた》まで御控へめさる、是《これ》で私《わし》が脚気《かつけ》の一つも踏み出したが最後、平家の一門同じ枕に討死《うちじに》ツてつた様な幕サ、考へて見りや何の為めに生れて来たんだか、一向《いつかう》合点《がてん》が行かねエや
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