――節操は女性《をんな》の生命ですもの、王の権力も父の威力も、此の神聖なる愛情の花園を犯すことは出来ません、――此頃父が九州からの帰途で、伊藤侯と同車したとやらで、侯爵が媒酌人《ばいしやくにん》になられるからと、父が申すのです、まア何と言ふ穢《けがら》はしいことでせう、伊藤侯と云ふものは我々婦人に取つては共同の讐敵《かたき》ではありませんか、銀子さん、私が松島様の申込を拒絶する為めに、仮令《たとへ》私の父が破産する如き不幸に逢《あ》ひませうとも、私は決して節操を涜《けが》すやうな弱い心は起しません、父の財産は不義の結果です、私は富める不義の家に悩める心を抱《いだ》いて在《ある》よりも、貧しき清き家に楽しき団欒《だんらん》を望むで居るのです――銀子さん、何卒安心して下ださいな」
梅子の美しき面《おもて》は日の如く輝けり、
銀子は袖かき合はせて傾聴しつ「――梅子さん、貴嬢《あなた》ほんとに幸福ネ――私《わたし》羨《うらやま》しいワ」
其の語尾の怪しくも曇《くもり》を帯べるに、梅子は眸《ひとみ》を凝《こら》して之を見たり、
十七の六
「銀子さん、私の何処《どこ》に羨《うら
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