せんよ」と、梅子も思はず片頬《かたほ》に笑みつ「只だ私も其時始めて、貴女と同じ様な痛苦を感じたと云ふ迄のことお話するんぢやありませんか――それで銀子さん、私は全然《まるで》砂漠《さばく》の中にでも居る様な寂寞《せきばく》に堪へないでせう、而《さう》すると又た良心は私の甚《はなは》だ薄弱であることを責めるでせう、墓所《はか》へ詣《まゐ》りましても、教会へ参りましても、私の意気地《いくぢ》ないことを叱る様な亡母《はゝ》の声が聞えるぢやありませんか、あゝ寧《いつ》そ死んだならば、斯様《こんな》不愉快な苦境から脱れることが出来ようなどと、幾度《いくたび》思ひ浮んだか知れませんよ――斯《か》う云ふ厭《いや》な月日を送つて、夜も安然に夢さへ結ぶことなしに思ひ悩んで居た時へ私は――銀子さん――何とも知れない一種の感動に打たれましたの――」
 言ひ渋《し》ぶる梅子の容子《ようす》に銀子は嫣然《えんぜん》一笑しつ「篠田|様《さん》に御会ひなすつたと仰《おつ》しやるんでせうツ」手を挙げて思ふさま、ビシヤリと梅子の膝《ひざ》を打てり、
 梅子は真紅《まつか》になりて俯《うつむ》きぬ、

     十七の五

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