《よ》くまア腰が屈《まが》つて仕舞はないと感心致しますの――否《いゝ》エ、此頃は、もう、ネ、老い込んで仕様《しやう》がありませんの、自分ながら愛想が尽きる程なんですよ――斯《か》う御見受け申した所、夏野様の旦那様は内務の参事官、秋葉様のは衆議院議員、冬田様のは日本銀行の課長さん、春山様のは陸軍中尉、蓮池様のは大学数授、何殿《どなた》も国家の大任ですねエ、桜井様のは留学中で御帰朝の後は医学博士、松村様のは弁護士さん――」
 と、次第に読み上げ行きしが、偖《さて》其次席に列《つら》なれる山木梅子が例の質素の容子《ようす》を見て、暫《しば》し躊躇《ためら》ひつ「山木様は独立で、婦人社会の為に御働《おはたらき》なさらうと云ふ御志願で、特《こと》に阿父《おとつさん》は屈指の紳商で在《いら》つしやるのですから」
 と、相当なる理由を発見して頌徳表《しようとくへう》を呈したる時、春山と呼ばれたる陸軍中尉の妻女「あら、麦沢先生、山木様は疾《と》くに御約束で、最早《もう》近々に御輿入《おこしい》れになるんですよ」と、黄色な声して嘴《くち》を容《い》れぬ、
「左様《さう》ですか」と、麦沢女教授は円《まる》
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