#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車《きしや》は停《とま》りぬ、
「オヽ、もう品川ぢや、浜子」と侯爵は少女の手を採《と》りて急がしつ「今夜は杉田の別荘に一泊するから失敬する」と言ひ棄てたるまゝ悠然《いうぜん》降り立ちて、闇《やみ》の裡《うち》へと影を没せり、
 窓に凭《よ》りて見送り居たる松島は舌打ちつ「淫乱爺《いんらんおやぢ》の耄碌《まうろく》ツ」

     十七の一

 麹町《かうぢまち》は三番丁なる清風《せいふう》女学校には、今日しも新年親睦会、
 校友の控所に充《あ》てられたる階上の一室には、盛装せる丸髷《まるまげ》、束髪《そくはつ》のいろ/\居並びて、立てこめられたる空気の、衣《きぬ》の香に薫《かを》りて百花咲き競《きそ》ふ春とも言《いふ》べかりける、
 中央の椅子に懸《かゝ》りたる年既に五十にも近からんと思はるゝ麦沢教授、小皺《こじわ》見ゆる頬辺《ほゝのあたり》に笑《ゑみ》の波寄せつ「皆さんが立派な奥様におなりなすつたり、阿母《おつか》さんにおなりなすつた御容子《ごようす》を拝見する程、私共《わたしども》に取つて楽《たのしみ》は御座んせんのね、之を思ふと私などは能
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