急|御挨拶《ごあいさつ》に及ぶで御座りませう」
「ウム、ぢや、早速|左様《さう》云ふことに」
 剛造の面《かほ》和《やはら》ぎたるに、牧師もホとばかりに胸撫で下ろしつ、
「ツイ失念致し居りまして御座りまするが、京都育児慈善会から貴方へ厚く御礼申上げ呉れる様にと精々申して参りました、沢山《たくさん》に義揖《ぎえん》を御承諾下ださいましたので、京阪地方の富豪を説くにも誠に好都合になりましたさうで、我国でのモルガン、ロックフェラアと言《いふ》べきであらうなど、非常に貴方を称讃して寄越《よこし》まして御座りまする」
「なに、ロックフェラアか、いや、ロックフェラアも近頃の不景気では思ふ様に慈善も出来ない」と、剛造は反《そ》り返つて呵々《かゝ》と大笑せり、
 牧師も愈々《いよ/\》笑《ゑみ》傾《かたむ》け「新聞で拝見致しましたが、今回九州地方の石炭会社の同盟して露西亜《ロシヤ》へ石炭販売を禁止なされたのも、貴方《あなた》の御発意と申すことで、実業界から斯《か》かる愛国の手本が出ますると云ふのは、実に近来の快事で御座りまする」
「ハヽヽヽヽ」と剛造は一《ひ》ときは高笑ひ「商売にしてからが、矢ツ張り忠
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