配するに及ぶまい、日露戦争に反対するのだから、即《すなは》ち売国奴《ばいこくど》と言ふべきものでは無いか」
 牧師は額押へて謹聴し居たりしが、やがて少しく頭を揚げつ「――一々御同感で御座りまするので――が、何分にも御承知の如き尋常《なみ/\》ならぬ男なので御座りまするから、執事等も陰では皆な苦慮致し居りまするものの、誰も言ひ出し兼ねて居るので御座ります――如何《いかが》で御座りませう、御足労ながら貴方から一言教会へ直接に御注意下さりましては、多分一同待ち望んで居ることと思はれまするので――」
「私《わし》が教会などへ行つて居《を》れると思ふか」と、剛造は牧師を睨《にら》みつ「私《わし》は体の代りに黄金《かね》を遣《や》つてある筈《はず》だ――イヤ、牧師ともあるものが左様《さやう》に優柔不断ならば、私の方にも心得がある、子女等《こどもら》も向後一切教会へは足踏みもさせないことに仕《し》よう」
「ア、山木さん、御立腹では恐れ入りまする」と、牧師は周章《あわただ》しく剛造をなだめ、
「宜《よろ》しう御座りまする、私《わたくし》も兼ねて其の心得で居りましたのですから、早速執事等とも協議の上、至
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