9−6]車《きしや》は既に淡《あは》き燈火《ともしび》を背負うて急ぐ、
 ポケットより巻莨《たばこ》取り出して大佐は点火しつ「閣下、又《ま》た近日元老会議ださうで御座りまして、御苦労に存じます」
「松島、実に困らせをるぞ、権兵衛に少《す》こし確乎《しつかり》せいと言うて呉れ」
「閣下、其れは私共《わたくしども》の方で申上げたいと存じまする所です、ヤ、モウ、先刻も横須賀へ参れば、艦隊の連中からは、大臣が弱いの、軍令部が腰抜だのと勝手な攻撃を受けます、元老方からは様々御注文が御座りまする、民間からは出法題《ではふだい》な非難を持ち掛ける、斯様《こんな》割の悪い役廻りは御座りませぬ」言ひつゝ、烟草《たばこ》の煙の間より、浜子の姿をチラリ/\と、横目に睨《にら》む、
 大佐の目遣《づか》ひに気つきたる侯爵「や、松島、爰《こゝ》に居る山木は君の舅《しうと》さうぢやナ、――先頃誰やらが来て切《しき》りに其の噂《うはさ》し居つた、彼《あ》の様子では兎《と》ても尊氏《たかうぢ》を長追ひする勇気があるまいなどと嫉妬《しつと》し居つたぞ、非常な美人さうぢやな、何時《いつ》ぢや合衾《がふきん》の式は――山木
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