に居た頃、丁度ビスマルクが盛に社会党鎮圧を行《や》りおつた、然るに現時《いま》の内閣の者共が何も知らないから、少しも取締が届かない――可矣《よし》、山木、早速桂に申し付けよう」
「閣下、誠に有難う御座ります」と山木は足の爪先まで両手を下げつ、「イヤどうも、政府の大小、御世話なされまするので、御静養と申すこともお出来なされず、御推察致しまする」
「ウム、何かと云ふと、直ぐ元老が呼び出されるので、兎《と》てもかなはん――只だ美姫《びき》の幸《さいはひ》に我労を慰するに足るものありぢや、ハヽヽヽヽ、なア浜子」
 汽車は早くも大船《おほふな》に着けり、一海軍将校、鷹揚《おうやう》として一等室に乗り込みしが、忽《たちま》ち姿勢を正《ただし》うして「侯爵閣下」
 徐《おもむ》ろに顧みたる侯爵「ヤア、松島大佐か――何処《どこ》へ」
「横須賀からの」

     十六の三

「松島さん」と慇懃《いんぎん》に挨拶《あいさつ》する山木剛造を、大佐は軽く受け流しつ、伊藤侯爵と相対して腰打ち掛けぬ、
 夕陽《せきやう》は尚《な》ほ濃き影を遠き沖中《おきなか》の雲にとどめ、※[#「さんずい+氣」、第4水準2−7
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