同胞新聞など申す毒筆専門の機関を所持致し居りまするから、無智無学の貧民共は、ツイ誘惑されぬとは限りませぬ、尤《もつと》も警察が少こし確乎《しつかり》して居りまするならば彼れ等程のものに別段心配も御座りませぬが、何分にも閣下が総理の御時代とは違ひまして、警察の方なども緩漫《くわんまん》極《きはま》つて居りまするから――」
薄き眉ビリと動くと共に、葉巻《シガー》の灰|震《ふる》ひ落としたる侯爵「山木、其の同胞新聞と云ふのは、篠田何とか云ふ奴の書き居《を》るのぢやないか」
「ハ、篠田長二と申すので、閣下|御存《ごぞんじ》で御座りまするか」
「否《い》や、顔は見たことないが、実に怪《け》しからん奴ぢや、我輩のことなど公私に関はらず、攻撃を――」
と言ひさして、浜子を見やれば、浜子は艶《なまめ》かしく仰ぎ見つ、「御前《ごぜん》、あの私《わたし》のこと悪口書いた新聞でせう、御前、何卒《どうぞ》讐《かたき》討《う》つて下ださいな」
「ウム」と首肯《うなづ》きたる侯爵「先年、彼等が社会民主党を組織した時、我輩は末松に命《いひつ》けて直《ただち》に禁止させたのぢや、我輩が憲法取調の為め独逸《ドイツ》
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