ラットホームに俄《にはか》に足音|急《いそが》はしく、駅長自ら戦々兢々《せん/\きよう/\》として、一等室の扉を排《ひら》けば、厚き外套《ぐわいたう》に身を固めたる一個の老紳士、平たき面《おもて》に半白の疎髯《そぜん》ヒネリつゝ傲然《がうぜん》として乗り入る後《うし》ろより、未《ま》だ十七八の盛装せる島田髷《しまだまげ》の少女、肥満《ふとつちよう》なる体をゆすぶりつゝ笑《ゑみ》傾《かたむ》けて従へり、
発車の笛、寒き夕《ゆふべ》の潮風に響きて、汽車は「ガイ」と一と動《ゆ》りして進行を始めぬ、駅長は鞠躬如《きくきゆうぢよ》として窓外に平身低頭せり、去《さ》れど車中の客は元より一瞥《いちべつ》だも与へず、
未《ま》だ座には着くに至らざりし彼《か》の少女は、突如たる※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車《きしや》の動揺に「オヽ、怖《こ》ワ」と言ひつゝ老紳士の膝《ひざ》に倒れぬ、
紳士は其儘《そのまゝ》かき抱《いだ》きて、其の白きもの施《ほど》こせる額を恍惚《うつとり》と眺《なが》めつ「どうぢや、浜子、嬉しいかナ」と言ふ顔、少女は媚《こび》を湛《たゝ》へし眸《め》に見上げつゝ「
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