すのですよ、私《わたし》、老女さんに抱いて戴いて、亡母《はゝ》と永訣《おしまひ》の挨拶《あいさつ》をしたのですとネ、――私、老女さん、此の洋琴に向ひますとネ、何《ど》うやら亡母が背後《うしろ》から手を取つて、弾いてでも呉れる様な気が致しましてネ、不図《ふと》、振り向いて見たりなどすることがあるんですよ、――私ネ、老女さん、此の教会を棄てることの出来ないのは、こればかりなんです――」
「まア、貴嬢《あなた》、飛んでも無いこと仰《おつ》しやいます、此上貴嬢が退会でもなさろものなら、教会は全《まる》で闇《やみ》ですよ、篠田さんの御退会で――」
 思はず言ひ掛けて、老女は俄《にはか》に口に手を当てぬ、「ほんとに老女《おば》さん、篠田さんのことでは私、皆様にお顔向けがならないのです、――老女さん、近く篠田さんに御面会《おあひ》なさいまして――」
「ついネ、此の廿五日にも参上《あが》つたのですよ、御近所の貧乏人の子女《こども》を御招《および》なすつて、クリスマスの御祝をなさいましてネ、――其れに余りお広くもない御家《おうち》に築地の女殺で八釜《やかまし》かつた男の母《おや》だの、自由廃業した芸妓《
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