たふ  平安《やすき》きたり
よゝのひじりらの   まちし国に
エスを大君と     たゝへあがめ
あまねく世のたみ   たかくうたはん」
[#ここで字下げ終わり]
 篠田は起《た》つて聖書を読み、祈祷《きたう》を捧げ、扨《さ》て今宵《こよひ》の珍客なる少年少女に向《むかつ》て勧話の口を開けり、
「貴所等《あなたがた》と私《わたし》とは長く御近所に住つて居りますが、今まで仲よく一所に遊ぶ様な機会《をり》がありませんでした、今晩は能《よ》くこそ来て下さいました、――今晩|貴所方《あなたがた》をお招《よび》申したのは、耶蘇基督《イエスクリスト》と云ふお方の御誕生日を、御一所にお祝ひ致《い》たさうと思つたからです、貴所方《あなたがた》も皆《みん》な生れなすつた日がある、其日になると、阿父《おとつ》さんや、阿母《おつか》さんが、今日は誰の誕生日だからと、何かお祝をして下ださるでせう」
「アイ、二十日《はつか》が俺の誕生日だツて、阿母《おつかあ》が今川焼三銭買つて、父《ちやん》の仏様へ上げて、あとは俺が皆な食べたよ」と、突如《だしぬけ》に返事したるは、覚束《おぼつか》なき賃仕事に細き烟《けむり》
前へ 次へ
全296ページ中127ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 尚江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング