目の夕方、ブラリと出て新聞社へ参つたのですヨ、――先生様が、凝《じつ》と私の顔を見つめなすつて、『貴女《あなた》の御一身は私《わたくし》が御引き受け致しました、御安心なさい』と仰しやつた御一言が、森《しん》と骨にまで浸《し》み徹《とほ》りましてネ、有り難いのやら、嬉しいのやら、訳なしに涙が湧《わ》き出るぢやありませんか」
言ひつゝ彼女《かれ》は襦袢《じゆばん》の袖もて窃《そ》と眼を拭《ぬぐ》ひつ「それから老女《おば》さん、燈《ひ》が点《つ》いて後、此家《こちら》へ連れて来て戴いたのですがネ、あの土橋を渡つて烏森の方を振り返つて見た時には、コヽに廿一年暮らしたのかと思ふと、怨《うら》めしい様な、懐《なつか》しい様な、何とも言へない気がして胸が張り割《さ》ける様でしたの、アヽ此処《こゝ》の為めに生れも付かぬ賤《いや》しい体になつたのだと思ひついて、そして先生様の後姿をお見上げ申すとネ、精神《こゝろ》が鞏固《しつかり》して、籠《かご》を出た鳥とは、此のことであらうと飛び立つ様に思ひましたよ――」
「ほんとにねエ」と兼吉の老母《ばゝ》も煙に咽《むせ》びつ、
十三の二
「それから
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