継母の権威さへ遂《つひ》に梅子の前に其光を失ふに及びて、今は父剛造自ら頭《かしら》を垂れて哀願せざるべからずなりぬ、
 此夜彼が「梅子、相変らずの勉強か」と、いとも柔《やは》らかに我女《わがこ》の書斎を訪《おとづ》れしも是《こ》れが為めなり、
 あらゆる威嚇《いかく》、甘言、情実、誘惑に対する彼女の防禦《ばうぎよ》方法は、只だ沈黙と独身主義とのみ、流石《さすが》の剛造も今は殆《ほとん》ど攻めあぐみぬ、
「デ、梅子、私《わし》は決してお前が篠田などと関係があるの何のと思《お》もやせぬ、私はお前が其様《そんな》馬鹿と思もやせぬから少しも気には留めぬが、大洞《おほほら》が切《しき》りに其事を言ふので、誰が言うたか松島大佐も其れが為めに甚《ひど》く感色を悪るくして居たと云ふのだから、――篠田も最早《もはや》教会を除名した上は、風評《うはさ》も自然立ち消えになるであらうが、兎角《とかく》世間は五月蝿《うるさい》ものだから、一層気を付けて――ナ其れに其の新聞にもある通り」と剛造ほ梅子の机上にヒロげられたる赤新聞を一瞥《いちべつ》しつ「篠田の奴、実に怪《け》しからん放蕩漢《はうたうもの》だ、芸妓《げ
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