てはなりません、貴郎《あなた》は篠田さんを誤解して居なさるから――」
「誤解? 誤解とは何です」
「いエ、慥《たしか》に貴郎《あなた》は誤解して居なさいます、剛さん、貴郎は篠田さんが常に洗礼のヨハネをお説きになつたことを御聴きでせう、又た実に殆どヨハネの如く生活して居なさることも御覧でせう、家庭の歓楽と云ふ如き問題は、最早《もは》や篠田さんのお心には無いのです、勿論《もちろん》彼《あ》の様なる荘厳の御精神に感動せざる女性《をんな》の心が、何処《どこ》にありませう、けれど剛さん、若し自分一人して其の愛情を獲《え》たいと思ふ女《ひと》があるならば、其れは丁度《ちやうど》申しては、失礼ですが、私共《わたしども》の父上や、貴郎の伯父上が、自分の手一つに社会の富を占領したいと思召《おぼしめ》すのと、同じ罪悪です」
 夕ばえの富士の雪とも見るべき神々しき姉の面《おもて》を仰ぎて、剛一は、腕《うで》拱《こまぬ》きぬ、
 鳥の群、空高く歌うて過ぐ、

     十二

 日露両国の間、風雲|転《うた》た急を告ぐるに連れて、梅子の頭上には結婚の回答を促《うな》がすの声、愈々《いよ/\》切迫し来れり、
 
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