だが、然《し》かし此頃娘共の話《はなし》して居た所を聞くと、近来教会に於《おい》ても、耶蘇《ヤソ》教徒は戦争に反対せにやならぬなど、無法なことを演説すると云ふことだが、」
 牧師は恐る/\口を開き「さ、其件に就きましては私《わたくし》も一方ならず、心痛致し居りまするので」と弁せんとするを、剛造は莨《たばこ》の灰もろ共に払ひ落としつ「其《それ》に梅子などは何《どう》やら其の僻論《へきろん》に感染して居るらしいので、大《おほい》に其の不心得を叱つたことだ、特《こと》に近頃|彼女《あれ》の結婚に就《つい》て相談最中のであるから、万一にも社会党等の妄論《ばうろん》などに誤られる様なことがあらば、其れこそ彼女ばかりでは無い、山木一家《やまきいつけ》に取つて由々しき大事なのである、で、今日君を御呼び立て致したのは、社会党を矢張り教会に入れて置かるゝ御心得か如何《どうか》を承つて、其上で子女等《こどもら》を教会へお預けして置くか如何を決定したいと思ふのである」
 牧師は俯《ふ》して沈黙す、
 剛造はジロリ其を見やりつ「苟《いやしく》も山木の家族が名を出して居る教会に、社会党だの、無政府党だのと云ふバ
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