チルスを入れて置かれては、第一我輩の名誉に関することで、又た彼《あ》の様な其筋で筆頭の注意人物を容《い》れ置くと云ふのは、教会の為めにも不得策だらう、彼様《あんな》乱暴な人物も耶蘇教信者だと云ふので、無智漢の信用を繋《つな》いで居《ゐ》るのだから」

     一の三

 牧師は僅《わづか》に頭を擡《もた》げぬ、
「御立腹の段は誠に御尤《ごもつとも》で、私《わたくし》に於ても一々御同感で御座りまする、が、只《た》だ何分にも篠田が青年等の中心になつて居りまするので」
「さ、其のことである」と、剛造は吻《くちばし》を容《い》れぬ、「危険と言ふのは其処である、卵の如き青年の頭脳へ、杜会主義など打ち込んで如何《どう》する積《つもり》であるか、ツイ先頃も私《わし》が子女等《こどもら》の室を見廻はると、長男《せがれ》の剛一が急いで読んで居た物を隠すから、無理に取り上げて見ると、篠田の書いた『社会革新論』とか云ふのだ、長谷川君、少しは考へて貰ひたいものだ、教会へは及ばずながら多少の金を取られて居《を》る、而《さう》して家庭《かない》へ禍殃《わざはひ》の種子《たね》を播《ま》かれでも仕《し》ようものな
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