るけれど、僕は毎朝買つて見て居るんです――九州炭山の坑夫間に愈々《いよ/\》同盟が出来上がらんとして、会社の方で鎮圧策に狼狽《らうばい》してると云ふ通信が載《の》つてたのです、――僕は端《はし》なくも篠田さんが曾《かつ》て『労働者中|尤《もつと》も早く自覚するものは、尤《もつと》も世人に軽蔑《けいべつ》されて、尤も生活の悲惨を尽くしてる坑夫であらう』と予言された演説の一節を、思ひ浮べました、姉さん、篠田さんは曾《かつ》て此事を予言なされたのです」
剛一は「篠田」の一語に力を籠《こ》めて姉の面《おもて》を見たり、
ベンチに腰打ち掛けたるまゝ梅子は無言なり、
剛一は少しく声をひそめつ「僕は姉さんが松島の野郎の縁談を断然拒絶なされたと聞いて、実に愉快で堪まらんのです、彼奴《きやつ》の家を御覧なさい、彼《あ》の放蕩《はうたう》を御覧なさい、軍艦のコムミッションと、御用商人の賄賂《わいろ》ぢやありませんか、――貴嬢《あなた》を妻に欲しいと云ふのも、決して貴嬢の学識や品性を重んじて言ふのぢや無い、只《た》だ貴嬢の特別財産を見込むのだ、実に失敬ナ――けれど姉さん僕は貴嬢に一つの疑問があるのです
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