の春の一人の処女《むすめ》を生きながら地獄へ落しなすつたことは、モウ疾《と》くにお忘れだらうネ」
花吉は、養母《おふくろ》の尖唇《つのくち》を怨《うら》めしげに一瞥《いちべつ》しつ「養母《おつか》さん、私《わたし》を食つた其鬼が、お前の難有《ありがた》がる大臣サ、総理大臣の伊藤ツて人鬼サ、――私もネ、其れ迄《まで》は世間なみの温順《おとなし》い嬢《むすめ》だつたことを覚えてますよ、それが官位の棒で押へられ、黄金《かね》の鎖《くさり》に縛《しば》られて、恐ろしい一夜を過ごした後は、泣いてもワメいても最早《もう》取り返へしは付かず、女性《をんな》の霊魂《たましひ》を引ツ裂れた自暴女《あばずれもの》、蕾《つぼみ》で散つた昔の遺恨《うらみ》を長き紀念《かたみ》の花吉と云ふ、一生の恋知らずが、養母さん、お蔭様で一匹出来上りましたのサ――ヤレ侯爵の殿様だの、大勲位の御前《ごぜん》だのと、聞くさへも穢《けがら》はしい、彼様《あんな》狒《ひゝ》見たいな狂漢《きちがひ》に高い禄《ふち》遣《や》つてフザけさせて置く奴も奴だが、其れを拝み奉る世間の馬鹿も馬鹿だ、侯爵が何だ、大勲位が何だ、人をツケ――」
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