の子を僧都は愛らしいとほめた。
「この少年に持たせてやります手紙に彼女の昔の知人のことをほのめかしておいてください」
と薫が言ったので、僧都はさっそく手紙を書いた。
「ときどきは山へも登って来て遊んで行きなさい。私にあなたは縁がないのでもないからね」
などとも言った。少年は縁のあるという理由がわからないのであるが、手紙を受け取ってすぐに供の中へまじった。
坂本へ近くなった所で、
「前駆の者は列を分かれ分かれにして声も低くして行くように」
と大将は注意した。
小野では深く繁《しげ》った夏山に向かい、流れの蛍《ほたる》だけを昔に似たものと慰めに見ている浮舟《うきふね》の姫君であったが、軒の間から見える山の傾斜の道をたくさんの炬火《たいまつ》が続いておりて来るのを見るために尼たちは縁の端へ出ていた。
「どなたがお通りになるのでしょう。前駆の人がたくさんなように見えますね。昼間|横川《よかわ》の方へ海布《め》の引乾《ひきぼし》を差し上げた時に、大将さんがおいでになって、にわかに饗応《きょうおう》の仕度《したく》をしている時で、いいおりだったというお返事がありましたよ」
「大将さんとい
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