などもある人ですから、私の行き届かない所からなくしたように恨まれてもしかたのない人なのですが」
 と薫は言った。僧都は予期のとおりあの人はただの家の娘ではなかった。貴女《きじょ》であろうとは初めから考えられたことであった。自身で来てこれほどに言っておられる人であれば、深く愛された人に違いないと思うと、自分は僧であるにせよ、あまりに分別なくあの人の望みにまかせて出家をさせてしまったものであると胸がふさがり、返辞をどうすれば障《さわ》りなく聞こえるであろうと考えられるのであった。事実をもう皆知っておられるらしい、これだけのことがすでにわかっている上で、探りにかかられては何も何も暴露してしまうはずである、隠してはかえって迷惑が起こるであろうという結論を僧都は得て、
「どういうことでこんなことが起こりましたかと、昨年来不思議にばかり思われていました方のことかと思われます」
 と言い、
「小野の母と妹の尼が初瀬《はせ》寺に願がございまして参詣《さんけい》いたしました帰りに宇治の院という所に休んでおりますうちに、母の尼が旅疲れで発病いたしまして、重そうに見えると申すしらせが私の所へあったものですか
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