どをしている客に湯漬《ゆづ》けなどが出された。あたりのやや静かになったころ、
「小野の辺にお知り合いの所がありますか」
 と薫は尋ねた。
「そうです。それは古くなった家なのでございます。私に朽尼《くちあま》とも申すべき母がありまして、京にたいした邸《やしき》があるのでもありませんから、私が寺にこもっております間は、近くに来ておれば夜中でも暁でも何かの時に私が役だつことになるかと思いまして小野に住ませてあるのでございます」
「あの辺は近年まで住宅も相応にあったそうですが、このごろは家が少なくなったそうですね」
 と言ったあとで、薫は座を進めて低い声になり、
「確かなこととも思われませんし、またあなたへお尋ねしましては、なぜ私がそれを深く知ろうとするのかと不思議にお思いになるであろうしとはばかられるのですが、その山里のお家《うち》で私に関係のある人がお世話になっているということを聞きましたが、事実であるとすれば、そうなるまでの経路などもお話し申しておきたいと考えていましたうちに、あなたのお弟子にしていただいて尼の戒を授けられたということが伝わってきましたが、真実でしょうか。まだ年も若くて親
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