、つくづくとながめているうちに、桜の色を着たほうの人が恋しい姫君であることも見分けることができた。「散りなんのちの」という歌のように、のちの形見にも面影をしたいほど麗艶《れいえん》な顔であった。いよいよこの人をほかへやることが苦しく少将に思われた。若い女房たちの打ち解けた姿なども夕明りに皆美しく見えた。碁は右が勝った。
「高麗《こま》の乱声《らんじょう》(競馬の時に右が勝てば奏される楽)がなぜ始まらないの」
と得意になって言う女房もある。
「右がひいきで西のお座敷のほうに寄っていた花を、今まで左方に貸してお置きあそばしたきまりがつきましたのですね」
などと愉快そうに右方の者ははやしたてる。少将には何があるのかもよくわからないのであるが、その中へ混じっていっしょに遊びたい気のするものの、だれも見ないと信じている人たちの所へ出て行くことは無作法であろうと思ってそのまま帰った。
もう一度だけああした機会にあえないであろうかと、少将はそののちも恋人の邸をうかがい歩いた。
姫君たちは毎日花争いに暮らしているのであったが、風の荒く吹き出した日の夕方に梢《こずえ》から乱れて散る落花を、惜しく
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